徒然話

 TVを見ていて「笹塚」という言葉に触発されて思い出したことを記しましょう。私が大学生のころ、山形大学の友人が大阪の私のもとに遊びに来て、じゃあねと言って新幹線で東京へ向かって帰るというので新大阪まで見送りに行ったのであります。出発間際に友人が、どうせヒマやろ、いっそ一緒に東京へ行こうやというので、儂一文無しやでと言うと、お金は出してやるというのでそのまま一緒に新幹線で東京へいくことになりました(ジャージとスリッパ姿のまま)。そして、同じ高校の同級生が上智大学にいたのでその下宿を訪問しました(アポ無し)。まあそこが笹塚だったわけです。財津一郎似でしゃくれ顔の同級生は上智大学というよりはまさに田吾作という言葉がピッタリの人物です。
 彼の部屋に入ったとたん、ムッとする匂いに襲われました。生まれて初めて経験する匂いで吐き気がしました。そうかこれが「男の体臭」なのかと思いました。私は極めて汚い暮らしぶりでしたが彼の強烈な男の匂いに圧倒され自分が無色透明で何の存在感もない存在のように感じました。
 その夜、彼は下宿の美人娘がいかにかわいいかという話や、武者小路実篤の孫をナンパした話や、若い私を興奮させずにはおかないようなめくるめく東京暮らしの話を語りました(田吾作顔のくせに)。わたしらは笹塚のスナックで飲みつつ語り続けました。私はその時、生まれて初めて「アンチョビピザ」を食べたことを覚えています。アンチョビなんて1970年代の学生にはとてもオシャレな食材だったのであります。
 その後私は調子に乗って山形まで友人のお供をしたように思います。山形での話はまた今度。